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技能五輪金賞がつなぐ、タイル職人育成の最前線


2023年・2024年の技能五輪「タイル張り」職種において、2年連続で金賞を受賞したのは、いずれもIITA(INAX建築技術専門校)の修了生だった。現場力が重視される建設業において、若手が技術を磨き、企業が人を育てる。その営みの成果を証明するかのような快挙の裏には、職人教育に真摯に向き合ってきた工事店の存在があった。2024年に金賞を受賞した福井大翔さんが所属する菅沼タイル店(愛知県)と、2023年金賞の隅優斗さんが所属する中橋タイル(石川県)の2社に話を聞いた。

目次[非表示]

  1. 1.菅沼タイル店(2024年金賞)——職人の背中と、理論に裏打ちされた訓練
  2. 2.中橋タイル(2023年金賞)——若手が中心の組織風土と、仲間との成長
  3. 3.IITAの支え——実技と人間力を鍛える「全国唯一」の環境
  4. 4.技術の継承を超えて——未来を見据える育成のあり方

菅沼タイル店(2024年金賞)——職人の背中と、理論に裏打ちされた訓練

「現場監督という道もあったけど、自分の技術を磨いて、職人として現場で働きたかったんです」。福井大翔さんがタイル職人を志した理由は、そんな素直な気持ちからだった。

入社後はすぐにIITAに入校し、座学と実技を通してタイルの基礎を体系的に学ぶ。「最初は何が正解かもわからず不安でしたが、全国から集まった同期と比べることで自分の弱点も見えました」と当時を振り返る。

菅沼タイル店では、入社から3年間で2級技能士資格取得、技能五輪への挑戦を含む独自の育成ステップが組まれており、マイスターによるOJTと週次面談を軸に、職人としての意識と技術の両面を鍛える。「どんなに忙しくても、“練習に集中しろ”って時間を確保してくれた。あれは本当にありがたかったです」

このように、会社を挙げて若手を育てる姿勢は、単なる制度以上に“文化”として根付いている。練習の時間を保証するだけでなく、上司や先輩が一緒になって練習計画を立てることで、挑戦する若手が孤立せず、自然と自発性を発揮していく。金賞受賞という結果は、そのような組織全体の信頼と積み重ねの証とも言えるだろう。

「失敗を積み重ねて、どうやって改善するかを毎日考えていました」と語る福井さんは、大会前の練習では「最初は時間内に終わるなんて不可能と思った。でも、マイスターが“ここを5分短縮しろ”と具体的に指示してくれて、数字と感覚がつながっていった」と明かす。

金賞に向けた直前の練習は、決して楽なものではなかった。
「練習は毎朝8時に道具のチェックから始まって、夜までびっしり。疲れて帰っても、翌日の課題が気になって寝られない日もありました」と福井さんは振り返る。

限られた時間で課題を完成させる競技の特性上、数分単位で作業工程を見直し、無駄を削ぎ落とす反復練習が続いた。「でも、あの期間があったからこそ、本番の極度の緊張にも耐えられたし、実力を出し切ることができたと思います」

「一人では乗り越えられなかった。マイスターや先輩たちが、忙しい合間を縫って練習に付き合ってくれた。そういう環境にいられたことが一番の支えでした」と、周囲への感謝も口にした。

菅沼社長は、「技術は“盗め”と言われる時代ではもう人は育たない」と語る。「今の若い人たちは論理と感覚の両方が必要です。なぜこの手順なのか、なぜここでミスが起きるのか。それをきちんと分解して説明し、納得して動いてもらう。そうした環境づくりを一番大切にしています」

「職人を育てるのは、現場の数ではなく“どれだけ集中して取り組めたか”です。大会の準備期間中、彼が取り組んだ数十回の反復練習は、何年分もの経験に相当します」とも語ってくれた。

中橋タイル(2023年金賞)——若手が中心の組織風土と、仲間との成長

隅優斗さんが所属する中橋タイルでは、若手が主役となる環境が整っている。20代の職人が多く、入社当初から“先輩に頼れる”“気兼ねなく聞ける”という空気が自然と育っている。

「職人の世界ってもっと堅苦しいと思っていたんですけど、入社したら同世代が多くてびっくりした。20歳前後の若手が“普通に”仕事していて、すぐ馴染めました」と語る。
IITAでの経験を「毎日が充実していました。修学旅行みたいな気分でした」と笑う。「日中はみっちり実技、夜は仲間と宿舎で反省会。時にはゲームしたりジムに通ったり、生活そのものが職人としての土台だったと思います」

技能五輪の課題発表後、「これはマズい」と感じたという隅さん。「課題が細かすぎて、どうやって作業を詰めればいいのかわからなかった。でも、OBの奥野さんが“今から毎日付き合う”って言ってくれて、一気に覚悟が決まりました」

現場経験とは異なる競技の中で、一つひとつの動きを理論的に分解し、時間内に収める精度とスピードを磨く必要があった。限られた時間の中で成果を出すには、日々の練習の中で自分自身の癖を把握し、無駄を削ぎ落としていく過程が欠かせない。

「段取りや作業スパンを“30分でここまで終わらせろ”と細かく決められていて、最初は全然ついていけなかった。でも徐々にペースが掴めてくると、タイルを貼るのが楽しくなってくるんです」

大会で金賞を獲得した瞬間について、隅さんは「信じられない気持ちでした。ずっと支えてくれた人たちの顔が浮かんで、思わず泣きそうになりました」と振り返る。「毎日練習に付き合ってくれた奥野さんや、応援してくれた会社の先輩、家族にも本当に感謝しています」と語ってくれた。


中橋社長は、「育成って、制度じゃなくて“空気”が大事だと思うんです」と語る。「怒らないわけじゃない。でも、“失敗しても立て直せる”という安心感があると、若い子たちはどんどん挑戦します。ベテランも“自分が育てる立場”にいるという自覚が芽生えるんです」

「今、現場に出ている職人の半数以上が20代。これは業界ではかなり珍しい状況だと思います。彼らに任せられる現場を増やすことが、結果的に組織全体の自立につながっている」とも語る。

IITAの支え——実技と人間力を鍛える「全国唯一」の環境

両社の受賞者が口を揃えて語ったのが、「IITAでの経験がなければ金賞は取れなかった」という言葉だ。
IITA(INAX建築技術専門校)は、LIXILが運営する全国唯一のタイル職人育成機関であり、愛知県認定の職業訓練校として、全国から集まる若手技術者に体系立った技術指導を行っている。

約5ヶ月の集合訓練期間では、基本技能はもちろん、道具の管理、計画的な作業手順、そして精度に対する意識など、現場で求められる「総合力」を集中的に身につける。講師陣はベテランのマイスターたちであり、日々の訓練を通して技術だけでなく“職人としてのあり方”まで含めて指導が行われる。

IITAの特徴的な点は、全国から集まった同世代の仲間たちと寝食を共にする合宿形式のプログラムにある。競い合い、助け合い、そして共に悩む中で、「仲間と成長する」という意識が自然と育まれる。

「夜、ホテルで隣の部屋の子と“あそこ難しくなかった?”と話しながら復習したり。IITAでの時間は一生忘れられません」と隅さんは笑顔で振り返る。
講師の厳しさと優しさも、受講生たちの記憶に深く残っているようだ。「失敗した時にはすぐに怒られる。でも、ちゃんと考えて質問したら、“そういう工夫はいいね”って褒めてもらえる。やる気が湧きました」

技術の継承を超えて——未来を見据える育成のあり方

こうした取り組みの土台には、長年にわたって職人育成を支えてきたLIXILの存在がある。
「LIXILさんは、メーカーという立場を超えて“現場の声を聞こう”という姿勢を持ち続けている。私たちも、その姿勢に共感してここまで一緒に歩んできました」と菅沼社長は語る。

中橋社長も、「LIXILがIITAのような場を維持してくれるおかげで、うちのような地場の工事店も若手を育てやすい。しかも国内でしっかりと製品を作り続けているメーカーとしての安心感がある。これからも現場とメーカーがともに未来をつくっていけたら」と話す。

企業単体では得がたい体系的な訓練と、全国レベルの切磋琢磨の機会を提供するIITA。そして、それを受け止める受け皿としての各地域の工事店。その両輪がかみ合って、初めて“金賞”という結果が生まれている。

菅沼社長はこう語る。「人を育てるというのは、会社の将来に対する投資です。すぐに利益を生むものではない。でも、福井のような若者が育っていけば、5年後、10年後の会社は必ず強くなる」


中橋社長もまた、「若手が育つことで、ベテランが教える立場になり、会社全体の士気が上がる。結果的に、品質も工期も、そして現場の雰囲気も良くなるんです」と話す。

若手が輝けば、次の世代もその姿を見て憧れる。循環が生まれる。技能五輪はそのきっかけであり、象徴でもある。

両社の社長はそれぞれ、技術だけでなく“人間性”を含めて育てていくことの重要性を語っていた。現場はチームで成り立つ場所であり、仲間との信頼関係こそが品質と安全を支えている──という共通の信念がそこにはある。

福井さんや隅さんのように、技能と人間力の両方を磨いてきた若者が育ち、現場でその力を発揮している姿は、企業にとって誇りであると同時に、未来への確かな希望でもある。

全国の若者が技術に向き合い、地域の企業が彼らを支え、そして社会がその努力を讃える。技能五輪金賞の背景には、そんな“育成の連鎖”があった。

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